新規開業をめざし、ようやく場所を決定。これから電子カルテを含むさまざまな設備を検討するため大学時代の先輩開業医に相談したところ、旧知のベテラン医療ITエンジニアである倉宇戸氏を紹介され、相談に訪れた。
電子カルテを比較し、
クリニックにふさわしいシステムを導入
複数のベンダーに勤務した経験を持ち、レセコン時代から30年近く医療IT開発に関わる。これまで200件以上のクリニックの開業に立ち会ってきた知見の宝庫。
クリニック向けの電子カルテシステムとは
「病院向け電子カルテ」には、病床管理システム、給食管理システム、電子クリニカルパス機能やパスと連携した高度なオーダリングシステムなど入院医療のための様々な機能が含まれています。無床クリニック向けの電子カルテには、当然ですが入院医療に関する機能はありません。また電子カルテはソフトとハードを合わせたシステム全体として考える必要があります。たとえば電子カルテを入力する端末数においては、病院向け電子カルテの場合は診察室の数はもちろん病棟の看護師の人数に合わせて数十台から数百台まで必要になる一方、内科の無床クリニックの大多数は3-5台程度です。このように病院向けと、クリニック向けでは求められる機能も規模も違うため、導入費用においても大きな違いがあります。診療科の数や病床数によりますが、「病院向け電子カルテ」は、「無床クリニック向け電子カルテ」の5-10倍以上になるイメージです。
逆にいえば「無床クリニック向け電子カルテ」のシステムはシンプルです。ソフトにサーバ(クラウド型では不要)、受付・診察室・処置室等に設置する数台の端末、そして受付で処方箋や領収証を出力するプリンターが基本的な構成となります。電子カルテ導入にあたって、まず自院に必要なシステム構成をイメージしてください。
クリニック開業においては様々な設備やシステムの導入について広い視点から情報収集を行い、限られた予算内に収めるため優先順位をつける必要があります。電子カルテを導入するデメリットの一つはコストですが、すでに新規開業クリニックではほぼ100%に近い割合で電子カルテが導入されており、クリニックにとって必要不可欠なシステムといえます。めざす診療スタイルの実現のために電子カルテを中心に様々な医療機器やサービスを組み合わせ、医療環境の最適化に取り組んではいかがでしょうか。
電子カルテシステム導入のメリット・デメリット
電子カルテを導入するメリットを整理してみましょう。
電子カルテのメリット(紙カルテとの比較)
- ①紙カルテは保管に場所をとるだけでなく、1枚1枚が個人情報なので配置場所や管理方法にも注意が必要。電子カルテなら保管に場所をとらないため通路やスタッフルームを広くするなど貴重なスペースを有効活用できる。
- ②紙カルテは探し出すのにスタッフの手間がかかり、患者さまの待ち時間も長くなりがち。一方電子カルテはシステム上に保管されるので検索がしやすく業務効率が向上する。
- ③紙カルテに比べ読み間違いが少なく、検査結果や診断画像の取り込みにより患者情報を一元管理できるためスタッフ間で情報共有ができ診療の質的向上に寄与する。
- ④PCやスマートデバイスから場所を問わずカルテ情報を参照できるため訪問診療で活用しやすい。
電子カルテのデメリットは、導入コストと運用コストがかかる上、最初は使い慣れるまで時間を要すること。だから環境や運用に適合した納得できるものを選ぶ必要があります」
実際に電子カルテを入れ替えるケースでは、旧電子カルテのデータをPDFで書き出して保存し都度参照したり、一定期間は以前の電子カルテと新たに導入した電子カルテの両方を並行して稼働する方法などが多いようです。DX時代にもかかわらず現状としてはアナログ的な対応方法しかなく、できればそんな手間はかけたくないですよね。
クリニック向けの電子カルテが広まり始めたのは今から約15年前頃からで、日医標準レセプト「ORCA(オルカ)」が開発されてからは、ORCAと連携する電子カルテにベンチャー企業含めさまざまなメーカーが参入し、現場の医師が開発したものもありました。
一方、思ったほど導入が進まず、中には事業から撤退するメーカーもありました。
電子カルテは永続的にアップデートが必要なので、メーカーが撤退するということは使えなくなることを意味します。そうなると新たな電子カルテに買い替えざるを得なく、蓄積してきた患者さんのカルテデータを使うためには先ほどお話したような手間やコストがかかることになります。
お伝えしたかったのは、電子カルテで失敗しないためには機能やコストだけでなく、『長く、安心して使う』ために幅広い視点から信頼のおけるメーカーのものを選択することが重要ということです」
クリニック開業における電子カルテ導入のポイント
- 電子カルテ導入にはメリット・デメリットはあるが、導入しない選択肢はない
- 選択には経営者としての幅広い視点を持つ
- 長く、安心して使えるメーカーを選ぶ
クラウド型電子カルテと院内サーバ設置型(オンプレミス型)電子カルテのメリット・デメリット
クラウド型電子カルテ | サーバ院内設置型電子カルテ | |
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メリット |
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デメリット |
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まず、電子カルテにクラウドが解禁されたのは2010年の厚生労働省による「『診療録等の保存を行う場所について』の一部改正について」が通知されてからです。これにより電子化された診療録を一定の基準を満たした民間企業が運用するサーバで管理することが認められました。
その後厚生労働省、経済産業省、総務省の3つの行政機関により、医療情報をクラウド上に保存する際に遵守しなければならない事項がまとめられた4つのガイドラインが出され(「3省4ガイドライン」)、電子的な医療情報を扱う際の責任のあり方や情報システムの基本的な安全管理、診療録と診療諸記録を外部に保存する際の基準、運用管理などについて定められ、最低限実施すべき対策、さらに推奨される対策などが示されました。
当初クラウド型電子カルテが登場した頃はセキュリティ面や安定性から導入を見送る医療機関も少なくありませんでした。その後世界的にさまざまな分野でクラウド化が加速する中、コスト面での優位性もあり電子カルテでもクラウド型の普及が進んでいます。
クラウドといえばAWS(アマゾンウェブサービス)が世界シェアNo.1で、多くの国内クラウド型電子カルテのメーカーもAWSを使用しています。クリニック内に設置されたサーバとAWSのような大規模クラウド事業者が管理するサーバを比べた場合、開業医個人がサーバ管理にかける費用を考慮すると、セキュリティやBCP(事業継続計画)の面ではクラウド型電子カルテに優位性があるといえます。2020年度から日本の政府共通プラットフォームもAWSを利用しています」
クラウド型の電子カルテメーカーはクラウド上のサーバをレンタルしていますが、独自の管理体制で運用を行っています。強固で厳格な監視体制を構築していればサーバ障害のリスクが低減できる上、障害が起こった場合でも復旧作業が迅速にできます。サーバ障害はどんなクラウド事業者であろうと起こりえないことではありませんが、管理運用体制の違いで安定性の品質が変わってくるのです。
管理運用体制を強固にすればリスクは減りますがコストは上がり、エンドユーザーの運用費にも影響してきます。この管理運用体制にこそクラウド型電子カルテメーカーの企業姿勢が反映されているといえるかもしれません。
あくまで私の意見ですが、5Gが完全に普及する近い将来はクラウド型電子カルテが主流になると思います。現時点では拡張性や速度の面でクラウド型には弱い部分があり、特に端末が多く必要なクリニックには院内サーバ設置型の方が適している場合があります。一方、これから増えていく在宅医療にはクラウド型電子カルテの機動性はますます重要になります。よって自院のめざす方針に合った電子カルテ選択することが必要です」
クリニック開業ではクラウド型電子カルテが主流に
- コスト面、セキュリティ面でクラウド型電子カルテに優位性あり
- クラウドの管理運用体制が重要(安心して稼働を任せられるメーカー選びが重要)
- 在宅医療にはクラウド型電子カルテが便利
クリニックにとって「使いやすい」「導入しやすい」電子カルテシステムとは
デザイン面・機能面から見た「使いやすさ」のポイント
デザイン面 | 長時間画面を見続けても疲れない色づかいや書体 |
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シンプルで標準化されたレイアウト | |
直観的な操作性 |
機能面 | 入力頻度の高い項目が上位表示される学習機能 |
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ヒューマンエラーを防ぐアシスト機能 | |
検査機器や画像診断装置、PACS等との連携機能 | |
受付予約システムなどとの連携による拡張性 |
電子カルテの登場からしばらくは、紙カルテからの移行を促進するためキーボード入力が苦手なドクター向けにペン入力や音声入力など「紙カルテと同様な記入しやすさ」をアピールしていた時期もありました。PCに慣れたドクターが増えてきた最近は、人間工学的に疲れない色づかいや書体の採用により「紙カルテより使いやすい」のはあたり前で、それ以上に「紙カルテではできない機能」が注目されるようになってきました。
例えば再診の患者さんのカルテを何年もさかのぼって同様の主訴を検索するのは紙カルテでは大変ですが、電子カルテでは検索機能により一瞬で探せます。過去の処置や処方を確かめながら充実したコミュニケーションをとれるため患者さんの納得を得ながら診療ができ、患者さんの満足度向上につながります。
また病名の入力忘れは査定や返戻につながるヒューマンエラーですが、入力した処方内容から候補病名や併記病名を自動アシストしてくれる機能が装備された電子カルテもあり、請求漏れ・算定漏れ回避などレセプト業務の支援もしてくれます。
最近はクリニックでも代診が増えているようですが、代診のドクターにとっても使いやすくエラーを防止してくれる電子カルテを導入することが重要なのではないでしょうか。」
「使いやすい」電子カルテの機能
- 直観的に使え、疲れにくいデザイン
- 診療の質を高め、エラーを防止するアシスト機能
- レセプト業務の効率化に寄与する機能
電子カルテによる「医療DX」とは
- 受付 :
- Web予約・問診システム、自動受付精算機・セミセルフレジ
- 検査・診断:
- PACS/画像診断ワークステーション 、画像診断システム、院内検査機器
- その他 :
- オンライン診療システム、電子処方箋、病診連携システム
例えば、電子カルテと画像診断ワークステーション 、X線撮影システムを連携して患者情報や画像データを一元管理すればオーダーや検査結果の入力の手間が削減できる上、診療の流れがスムーズになるため患者さまの待ち時間も短縮できます。地域医療連携ネットワークとつながることができれば「かかりつけ医」としての役割強化はもちろん、集患にも寄与します。
「医療DX」が導く最大の効果は、「時間や場所」という制約を限りなく「ゼロ」にできることにあります。院内の各機器はもちろん地域の他の医療施設との連携がスムーズになることで、診療が効率化できる上、診療の質を高め、患者さま満足度向上にもつながるのです。
「医療DX」はクリニック経営の基盤
- 電子カルテを中心にさまざまな医療ソリューションを連携する「医療DX」により効率化を実現
- 連携により診療の質向上と患者さまの満足度向上に貢献